退院して初の診察の結果は、良好という診断だった。
「コンタクトを外します。痛いですよ」
主治医の言葉に身構えた。
手術翌朝の診察で、術後保護用のコンタクトを外した時の痛みは、一連の治療の中でも悶絶級だった。声を出さずに耐えてはいたものの、身体は正直で涙が止まらない。それを見た主治医は、「痛かったでしょ」と優しく声を掛けてきた。
僕からその表情は見えなかったが、なんとなくニヤリとしながら言っていたような気がする。時折感じていたのだが、彼女はそちら系の女王なんじゃないかと思うことがある。
そういえば今まで書いていなかったが、僕の主治医は女医である。それも僕よりかなり若い。
話がそれた。
そんなことがあったので今回もそれなりの痛みを覚悟していたのだが、点眼麻酔が効いたのか、それとも傷が癒えたのか、拍子抜けするほど何も痛くなかった。
「痛くなかったですか」
「大丈夫でした」
そう答えると、そのまま視力検査と傷の状態を確認する検査、そして眼底検査へ。
結果は、裸眼視力0.8、矯正視力1.2。
傷の治りも良好で、乱視も術前よりかなり改善していると、測定画像を見せながら説明を受けた。
僕は主治医に感謝の気持ちを伝えた。
すると彼女の表情にも笑顔が浮かんだ。初診から一か月以上経って、初めて見た笑顔だったかもしれない。
ぶどう膜炎を発症した左目も炎症は落ち着き、点眼回数を減らすことになった。薬を使い切れば治療は終了になるかもしれない。
洗眼と洗髪も解禁。復職も問題なし。
ようやく日常が戻ってきた。
その晩、恐る恐る頭から湯を浴びた。
ドライ生活からの解放。こんなにも気持ちの良いものだったのかと、しみじみ感じてしまった。
翌朝も違和感はなく、点眼を済ませて職場へ経過報告と復職の相談に向かう支度をしていた。
鏡を見た瞬間、異変に気づく。
右目が黒い。
よく見ると、術痕の辺りが鰹の血合いのような色になっている。黒目が大きく広がったようにも見え、一瞬何が起きたのか分からなかった。
慌てるべきか、それとも様子を見るべきか。
自分では判断できず病院へ連絡し、医師の判断を仰ぐことにした。
この日、主治医は不在だったため、代わりの医師から看護師を通じて返答があった。
「痛みや視野の異常、目やにが増えていなければ様子を見て大丈夫です。週末にかけて目やにが増えるようなら連絡を。心配であれば週明けに受診してください」
幸い、どれにも当てはまらなかったので静観することにした。
改めて目を見ると、切開創の上端付近から出血したようだった。血は羊膜の下で止まり、時間は掛かるだろうが、やがて吸収されて消えていくはずだ。
それでも、一週間かけて少しずつ良くなっていく様子を見続けていただけに、この後戻りしたような光景はかなり堪えた。
自分で見ても少し引いてしまうくらいなのだから、事情を知らない人が見れば、さぞ驚くだろう。
ようやく一息つけたと思った矢先だった。
今度は痛みではなく、見た目との付き合いが始まった。

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